幽玄衆の物語

幽玄衆の物語

第二十四話 語られぬ掟

月影派の詰所。行灯の灯りの下、朧は文机に広げた図面を睨んでいた。ここひと月ほど、省の手の者と思しき影の動きが、心なしか増えている。「朧様」霜が、音もなく現れた。膝をつく気配すら立てない。「霜か。何用だ」「省の動き、少々気になる筋を拾いまして...
幽玄衆の物語

第二十三話 紅椿、報告を聞く

黒鴉派の奥座敷。灯りを落とした部屋に、紅椿は一人で座っていた。膝の上で扇を閉じたまま、開かない。「――戻ったか」「はっ」鴉丸が片膝をつく。まだ息が整いきっていないのを、紅椿は見逃さなかった。「某の目にした限りを、そのまま申し上げます」鴉丸は...
幽玄衆の物語

第二十二話 鴉丸、深淵を見る

夜更け、街外れの廃寺。鴉丸は一人、禍の気配を追っていた。頭首・紅椿からの密命だった。寺の奥、そこには今まで見たどの塊とも違う、何かがあった。輪郭が定まらず、しかし確かに"在る"。近づくほど、鴉丸の足が重くなる。恐怖ではない。もっと根源的な、...
幽玄衆の物語

第二十一話 誓い

その夜、凪は稽古場に一人、座り込んでいた。小夜の木刀を、両手で握りしめたまま。「……守れなかった」「凪」焔が、静かに歩み寄ってきた。フードの下、隻眼にも、隠しきれない痛みがあった。「私が、あの子を指導係になどしなければ」「どっちのせいでもね...
幽玄衆の物語

第二十話 その日、儀は崩れ落ちた

悲鳴が上がるより早く、黒い塊が、会場の四方から噴き上がった。数は、これまでで最も多い。「儀式を狙ったか……!」朧が叫び、刀を抜く。焔・紅椿もすぐさま応戦に入った。凪は見習いたちを庇いながら、糸を放つ。「小夜、私の後ろへ!」「は、はい!」見習...
幽玄衆の物語

第十九話 初露の儀

数年に一度の初露の儀。各派の見込みある見習いを一堂に集め、幽玄衆全体に披露する、重要な公式の儀式である。三派の頭首、朧・紅椿・焔が並び、幹部たちがそれぞれの見習いを伴い列席する。月影派からは、幹部の凪が見習いたちを率いて臨席していた。「小夜...
幽玄衆の物語

第十八話 小夜、焔に憧れる

稽古場の隅、小夜は何度も足を止めていた。焔頭首が型稽古をしている。近づいてよいものか、迷っていた。幽刃派の頭首は、派手で恐ろしいと専らの噂だった。思い切って、小夜は声をかけた。「あ、あの……頭首様……!」焔が振り返る。隻眼の視線が、小夜を射...
幽玄衆の物語

第十七話 長老衆、焔を叱る

「――また無断で夜駆けしたそうだな」幽刃派の詰所、焔が戻るなり待ち構えていたのは、鉄斎だった。腕を組み、仁王立ちしている。「別にいいだろ、あたし一人で片付けたんだからさ」「良くはない」氷室が奥から現れ、扇でぴしゃりと膝を打った。「頭首が単独...
幽玄衆の物語

第十六話 霜、進言す

軍議の後、朧が一人になったところへ、霜が音もなく現れた。「頭首。少々、よろしいか」「霜か。構わぬ」霜は文机の前に膝をつき、一枚の書付を差し出した。「昨夜の一件、及び紅椿殿より伝わった件、拙者なりに調べており申した」「早いな」「事は急を要する...
幽玄衆の物語

第十五話 繋がる糸

翌朝、紅椿は月影派の屋敷を訪れた。案内も請わず、まっすぐに朧の居室へ向かう。「朝から、いかがした」朧が怪訝そうに問う。紅椿は静かに座し、昨夜のことを語った。侵入者、正体不明の気配、そして――「男は酔いに任せ、こう申しました。『兆しは、"仕込...