「――また無断で夜駆けしたそうだな」
幽刃派の詰所、焔が戻るなり待ち構えていたのは、鉄斎だった。腕を組み、仁王立ちしている。
「別にいいだろ、あたし一人で片付けたんだからさ」
「良くはない」氷室が奥から現れ、扇でぴしゃりと膝を打った。「頭首が単独で禍に突っ込んで、もし帰らなんだら、幽刃派はどうなる。少しは考えなさい」
「考えてるさ。考えた上で、動いてる」
「若い者の考えなど、たかが知れておる」鉄斎が唸る。「儂らが草創の頃に見た地獄を、お主はまだ知らぬ」
焔は舌打ちしかけて、しかし口をつぐんだ。長老たちの目の奥にある何かに、毎度気圧される。単なる小言ではない、と分かっているからだ。
「……悪かったよ。次からは、報告くらいする」
「初めからそう言え」氷室が扇を閉じた。「まったく、じじばば扱いしおって。誰のおかげでこの派が今も立っておると思うておる」
「分かってるって」
焔はぼやきながらも、二人に背を向けて詰所を出た。鉄斎と氷室は、その背中をしばらく見送った。
「……危なっかしいのう」
「危なっかしいのは、あの子だけではありませぬよ」
氷室は静かに呟いた。鉄斎は、それ以上何も問わなかった。
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