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第二十二話 鴉丸、深淵を見る

夜更け、街外れの廃寺。鴉丸は一人、禍の気配を追っていた。頭首・紅椿からの密命だった。

寺の奥、そこには今まで見たどの塊とも違う、何かがあった。輪郭が定まらず、しかし確かに”在る”。近づくほど、鴉丸の足が重くなる。恐怖ではない。もっと根源的な、何かに”見られている”感覚だった。

「――何者ぞ」

誰何しても、答えはない。ただ、耳の奥で、無数の声がざわめき始めた。言葉にならない、しかし確かに何かを訴えかけてくる声。

鴉丸は鎖鎌「業」を構えた。分銅を放つ。塊の一部を捉えたはずだった。しかし手応えがない。まるで、実体のないものを掴もうとしたかのように。

代わりに、鴉丸の脳裏に、見たこともない光景が流れ込んできた。誰かの記憶か、あるいは幻か――崩れゆく街、燃える社、泣き叫ぶ声。それが自分のものではないと分かっていても、鴉丸の膝は、勝手に折れそうになった。

「――ぬ、う……!」

歯を食いしばり、鴉丸は業の刃を、力の限り叩き込んだ。毒が、塊の中に染み渡っていく。ようやく、悲鳴とも呼べぬ音を立てて、それは崩れ去った。

鴉丸は、荒い息のまま、その場に膝をついた。全身から、冷や汗が噴き出していた。

「……あれは、何だ」

問いに、答える者はいなかった。ただ、廃寺の闇だけが、変わらずそこにあった。

鴉丸は、報告のために立ち上がった。だが、あの光景――誰のものとも知れぬ記憶が、まだ頭の奥にこびりついて離れなかった。


次話へ続く。

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