稽古場の隅、小夜は何度も足を止めていた。焔頭首が型稽古をしている。近づいてよいものか、迷っていた。幽刃派の頭首は、派手で恐ろしいと専らの噂だった。
思い切って、小夜は声をかけた。
「あ、あの……頭首様……!」
焔が振り返る。隻眼の視線が、小夜を射抜いた。
「……何の用だ、坊主」
「わ、わたくし……その、炎の術を、拝見しておりました」
「見世物じゃねえよ」
焔は素っ気なく言い放ち、稽古に戻ろうとした。小夜は俯き、それでも動かなかった。焔がふと、その様子に気づいた。
「……まだ何かあるのか」
「わ、わたくしも、いつか……あのような技を、使えるようになりたく……毎晩、こっそり素振りをしておりまして」
焔は片眉を上げ、小夜の手を一瞥した。豆だらけの、幼い手だった。噂に聞くような、口先だけの憧れではない。焔は少しの間、黙っていた。
「……見せてみな」
「え」
「素振り、だ。一回だけ、見てやる」
小夜は慌てて木刀を構え、覚えたばかりの型を、精一杯振った。危なっかしい動きだったが、迷いはなかった。
焔は何も言わず、それを見届けた。それから、ほんの僅かにだけ、口の端を上げた。
「悪くねえ。……励め」
それだけ言うと、焔はフードを深く被り直し、その場を後にした。
小夜は、しばらくその場に立ち尽くしていた。恐ろしいと思っていた頭首の、ふとした一言が、胸の奥に灯った。
コメント