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第十話 四たび目の兆し

明治の街外れ、灯りの絶えた路地。焔は一人、気配を追っていた。予言めいたあの符のことは、風の噂で耳にしていた。「兆しは四たび至る」――ならば、探して潰すまでだ。

路地の奥、空気が歪んでいる。目には見えぬ揺らぎ。焔はそこへ向かって、迷わず踏み込んだ。

「――出て来いよ」

答えの代わりに、闇そのものが立ち上がった。輪郭のない、黒い塊。禍の断片、そう呼ぶべきものだった。

焔は刀を抜き、同時に懐から焼夷器を取り出した。

「派手にいくぜ」

刃に炎を纏わせ、一閃。黒い塊が裂け、悲鳴のような音を立てて散る。だが完全には消えない。焔は追撃の炎を放った。

その刹那、炎の中に、赤とは違う色が一瞬だけ混ざった。淡い青、あるいは白。焔だけが気づく色。誰かが、焔の炎に寄り添っているかのような。

「……分かってるよ。あんたも、見てんだろ」

誰にともなく、焔は呟いた。答えはない。ただ炎は、いつもより強く、対象を焼き尽くした。

黒い塊が完全に消え去った後、焔はしばらく、そこに立ち尽くしていた。息を整え、刀を鞘に納める。

「四たび目、片付けたぜ。……でも、これで終わりじゃねえな」

夜風が、焼け跡の匂いを運んでいった。焔は踵を返し、帳への道を歩き出した。誰にも報告せぬまま、この日のことを、一人だけの記憶にしまい込んで。


次話へ続く。

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