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第十二話 群がる影

その夜、異変は一つではなかった。

郊外の三箇所で、同時に気配が立った。凪、紅椿、焔――たまたま近くにいた三人が、それぞれ別の場所から駆けつけることになった。

「――多いな」

焔が最初に到着した場所には、黒い塊が五つ、六つと蠢いていた。今までの比ではない数だった。

「一人でやるつもりかい、あんた」

紅椿の声が背後から届く。扇を開き、指先から見えぬ紅い糸を放つ。塊の一つが、糸に絡め取られて動きを止めた。

「毒、効くといいけどねえ」
「案ずるな。蜘蛛の巣に落ちたものは、逃れられぬ」

紅椿が答えると同時に、凪が音もなく塊の間を駆け抜けた。絞め糸術。二つの塊が、互いに縛り合うように動きを封じられる。

「数で押すか。ならば――」

焔が刀を抜き、炎を纏わせる。だが今回の塊は、これまでと違った。炎を浴びても、すぐには崩れない。むしろ膨らみ、焔へと押し返してきた。

「っ――」

焔の体が弾かれ、地に転がった。膝をつき、口の端から血が滲んだ。

「焔!」

凪が叫ぶ。紅椿の糸も、数に押されて綻び始めていた。三人がかりでも、押し切れない。今までとは、明らかに格が違った。

その時、夜気を裂いて、一陣の風が三人の間を通り抜けた。

塊の群れが、一瞬にして静まり返る。何が起きたのか、三人には見えなかった。ただ、群れが端から崩れ、陽炎のように消えていくのだけが見えた。

「――遅くなった」

朧だった。刀を鞘に納めながら、静かに歩み寄ってくる。その目の奥に、月光色の揺らめきが一瞬だけ残っていたが、誰も気づかなかった。

「無事か」
「……ああ、なんとかね」焔が苦笑いで立ち上がる。「にしても、今日のはヤバかったな。今までとは、桁が違う」
「うむ」朧は短く頷いた。「兆しは、増している。次はもっと、多くなろう」

紅椿が閉じた扇を握りしめる。凪は無言のまま、四人の影が長く伸びる地面を見つめていた。

戦いは、まだ始まったばかりだった。


次話へ続く。

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