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第十六話 霜、進言す

軍議の後、朧が一人になったところへ、霜が音もなく現れた。

「頭首。少々、よろしいか」
「霜か。構わぬ」

霜は文机の前に膝をつき、一枚の書付を差し出した。

「昨夜の一件、及び紅椿殿より伝わった件、拙者なりに調べており申した」
「早いな」
「事は急を要すると判じましたゆえ」

霜は淡々と続けた。

「政に近き筋が、禍の兆しを利用しておる可能性、拙者も同様の見立てにて。ただし――」
「ただし?」
「頭首は、焔殿の”直接対決”の主張に、いずれ引きずられましょう。拙者は、それに異を唱え申す」

朧は僅かに眉を上げた。霜は、臆する様子もなく続けた。

「政の筋が絡む以上、力押しでは事は解決いたさぬ。裏に何があるか、まず突き止めるが先。焔殿の勢いに流されては、月影派の――いや、幽玄衆全体の判断を誤りましょう」
「……手厳しいな」
「頭首に阿る(おもねる)は、拙者の役目にあらず」

朧は、しばし霜を見つめた。それから、小さく笑んだ。滅多に見せぬ表情だった。

「良い。そなたの申す通りにいたそう。裏を探れ。焔には、わしから話しておく」
「御意」

霜は一礼し、来た時と同じように、音もなく去っていった。朧は一人、書付に目を落とした。頼れる者が増えたことを、静かに噛みしめながら。


次話へ続く。

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