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第四話 焔、皮肉を三つ数える

「よう、月影の頭首様」

廊下の角で、焔は朧を見つけるなり片手を挙げた。マスクの上、隻眼の視線が愉快そうに細まる。

「……焔か」
「相変わらず愛想がないねえ、あんた」

焔はわざとらしく肩をすくめた。朧は歩みを止めず、焔の隣を通り過ぎようとする。それを、焔はひょいと回り込んで塞いだ。

「待ちなよ。刃の鬼面、まだ手がかりなしって聞いたぜ」
「そちらもであろう」
「まあね。鬼面の方はまだ探すしかない」焔は肩をすくめた。「けど、禍の方は話が別さ。あたしは待つのが性に合わない。見つけたら、叩き潰す。それだけさ」
「性急に過ぎれば、命を落とす」
「あんたはいつもそれだ。石橋を叩いて叩いて、叩き壊す前に渡るのをやめるだろう」

軽口だった。だが朧は、ふっと小さく息を吐いた。笑ったのかもしれない。滅多にないことだ。

「――言うな」
「言うさ。あたしとあんた、似た者同士だからね」

焔はそう言って、刀を鞘へ深く納め直した。柄を握る手、指の運び、鍔に触れる角度。ごくわずかな、癖のような所作。

朧はそれを見て、一瞬だけ目を細めた。何かが引っかかったような、奇妙な感覚。だがすぐに、忘れた。

「なんだ」焔が問う。
「……いや。何でもない」

二人はそれ以上、何も言わなかった。ただ、廊下を吹き抜ける風だけが、二人の間を通り過ぎていった。


次話へ続く。

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