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第二十四話 語られぬ掟

月影派の詰所。行灯の灯りの下、朧は文机に広げた図面を睨んでいた。ここひと月ほど、省の手の者と思しき影の動きが、心なしか増えている。

「朧様」

霜が、音もなく現れた。膝をつく気配すら立てない。

「霜か。何用だ」
「省の動き、少々気になる筋を拾いましてございます」

朧は図面から顔を上げた。

「申せ」
「探りを入れておるのは、禍の一件だけではございませぬ。……頭首の身辺、特に、跡目と伴侶についても」

朧は眉をひそめた。

「伴侶、だと」
「はい。誰と縁を結ぶか、結ばぬか。それによって、どの派とどの派が近づくか。省はそこに、幽玄衆を揺さぶる糸口を見ておるのやもしれませぬ」

朧は、しばらく黙った。柄にもなく、考えたことのない角度だった。

「……幽玄衆に、色恋の噂をとんと聞かぬのは、そのためか」

「戒律にございます。忍びに私情は不要、色恋沙汰は原則ご法度。ましてや頭首ともなれば、伴侶を選ぶには血筋、忠誠、帳の外への口外禁め――厳しい定めを経ねばなりませぬ」

「知らなんだわけではない。だが、そこまで厳しいとは思わなんだわ」

霜は、抑揚のない声のまま続けた。

「定めが厳しいということは、それだけ、破られたときの意味も大きいということにございます。省が付け入るとすれば、そこであろうが……拙者の目に留まりましたのは、これだけにございます」

朧は、少しの間、灯りの揺れを見つめていた。

「……掟が一度も破られたことがないとは、わしには思えぬがな」

霜は、それには何も答えなかった。答えを持たぬのか、持っていて口にせぬのか、その顔からは読めなかった。

「承知した。しばらくは、わし一人の胸に留めておく。お前も、他言は無用だ」
「御意」

霜が去った後も、朧はしばらく図面を見なかった。行灯の炎だけが、静かに揺れていた。


続く。(最新話)

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