明治の街外れ、灯りの絶えた路地。焔は一人、気配を追っていた。予言めいたあの符のことは、風の噂で耳にしていた。「兆しは四たび至る」――ならば、探して潰すまでだ。
路地の奥、空気が歪んでいる。目には見えぬ揺らぎ。焔はそこへ向かって、迷わず踏み込んだ。
「――出て来いよ」
答えの代わりに、闇そのものが立ち上がった。輪郭のない、黒い塊。禍の断片、そう呼ぶべきものだった。
焔は刀を抜き、同時に懐から焼夷器を取り出した。
「派手にいくぜ」
刃に炎を纏わせ、一閃。黒い塊が裂け、悲鳴のような音を立てて散る。だが完全には消えない。焔は追撃の炎を放った。
その刹那、炎の中に、赤とは違う色が一瞬だけ混ざった。淡い青、あるいは白。焔だけが気づく色。誰かが、焔の炎に寄り添っているかのような。
「……分かってるよ。あんたも、見てんだろ」
誰にともなく、焔は呟いた。答えはない。ただ炎は、いつもより強く、対象を焼き尽くした。
黒い塊が完全に消え去った後、焔はしばらく、そこに立ち尽くしていた。息を整え、刀を鞘に納める。
「四たび目、片付けたぜ。……でも、これで終わりじゃねえな」
夜風が、焼け跡の匂いを運んでいった。焔は踵を返し、帳への道を歩き出した。誰にも報告せぬまま、この日のことを、一人だけの記憶にしまい込んで。
コメント