黒鴉派の茶室に、朧は招かれていた。合同会議の後、紅椿がそう望んだのだ。
「月影の頭首様には、ゆるりとしていただきたく」
紅椿は自ら茶を点てた。所作の一つ一つに無駄がない。扇を置き、袖を軽く払い、茶碗を朧の前に置く。
「畏れ入る」
朧は短く応え、茶碗を手に取った。紅椿はその様を、静かに見つめていた。
――外から来た者。それでも、頭首の座に据えられるだけの器はあるか。
紅椿の内心は、決して顔には出ない。ただ扇の先が、畳の上をわずかになぞる。
「月影派は、先代様が忽然と姿を消されて以来、大変であられましょう」
「……そうさな」
「わたくしの一族にも、似たようなことが、ないとは申せませぬ」
朧は茶碗から顔を上げた。紅椿の表情に、変化はない。ただ言葉の意味を、朧が拾うかどうかを、静かに待っている。
「――どういう意味だ」
「さて。それは、また別の折に」
紅椿は微笑み、話を切り上げるように扇を開いた。その拍子に、指先がほんの一瞬、震えたように見えた。朧は気づかない。あるいは気づかぬふりをした。
「馳走になった」
朧が立ち上がる。紅椿は座したまま、深く一礼した。
「またのお越しを」
障子が閉じられた後、紅椿はしばらく、閉じた扇を見つめていた。まだ、判じかねる。朧という者が、味方となるか、それとも――
答えの出ぬ問いを、紅椿は袖の内にしまい込んだ。
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